長野県:北八ヶ岳火山群,天狗岳の山体崩壊で生まれた
     松原湖と天然ダム(大月川岩屑流)
地形の特徴

山体崩壊,岩屑なだれ,岩屑流,天然ダム,決壊,水害

地形の三次元イメージ : 大月川岩屑流
  • 西暦887年8月22日(仁和3年7月30日),巨大地震である「南海地震―東海地震」が発生し,中部日本の各所で大きな揺れに見舞われました。
  • 地震の揺れ(地震動)によって,北八ヶ岳火山群最南端の「天狗岳」とその周辺では,東向き斜面の頂上付近が大きく崩壊(山体崩壊)しました。
  • その場所は,根石付近~天狗岳~稲子岳岳 付近と言われています。 なお,硫黄岳の北東斜面も崩壊した,との学説もありましたが,少数派のようです。
  • 崩れた岩石は,大規模な「岩屑なだれ」となって「大月川」沿いに流れ下り,「千曲川」との合流点付近の両岸に「流れ山」を形成すると共に,「千曲川」を堰き止めて「天然ダム」を形成しました。
    左岸の流れ山の中の凹地に水が溜ってできた湖沼が,松原湖や大月湖などの「松原湖沼群」です。
  • この天然ダムの湛水量は極めて巨大であったため,すぐには決壊しませんでしたが,303日後の西暦888年(仁和4年)6月20日に,折からの梅雨時の降雨によっ満水となり,決壊して二次的な土石流(仁和の洪水砂)が発生し,長野盆地にまで達した,と記録にあります。
地形と地すべり地形の三次元イメージ : 大月川岩屑なだれ(岩屑流)
三次元地形図上でマウスクリックすると防災科学技術研究所の「地すべり地形分布図(出典,下記)」を表示します。 ダブルクリックで元に戻ります。

「滑落崖」は,崩壊や地すべりの最上部に顕れる急崖部のことで,「移動体」は崩壊あるいは滑り落ちた岩屑や土塊のことを指します。
  • 防災科学技術研究所から公開されている「地すべり地形分布図」によると,天狗岳とその付近の東斜面には,空中写真判読などによって判読された地形上の特徴である広範囲の「滑落崖」が分布しています。
  • 一方,大月川が千曲川に合流するあたりには,丘(凸)と窪地(凹)が折り重なっているような地形が広がっています。 この範囲が,山体崩壊で発生した岩屑なだれが堆積した場所で,「移動体」と呼ばれています。
    地質図によると,大月川岩屑なだれは,千曲川を閉塞(堰き止め)するとともに,千曲川沿いに下流へと流れ(押し出し?)て,現在の小海駅の下流あたりにまで達しています。
  • 大月川の中流部分には移動体の印がありません。 恐らく,その後の豪雨の際の洪水で,千曲川の方まで削られて運び去られてしまったのでしょう。
  • 硫黄岳の北東斜面は馬蹄形を呈していますが,ここに滑落崖の印はありません。 また,その斜面は大月川ではなく「湯川」に繋がっているのですが,湯川には移動体の印もありません。 千曲川との合流点付近やその上流にも流れ山らしき地形上の特徴も無いことから,硫黄岳の北東斜面は,西暦887年の地震時に崩壊しなかったのだろう,と考えられます。
地形の三次元イメージ : 北八ヶ岳,天狗岳付近の山体崩壊地形
  • 図中,右上側の「稲子岳」は,元々後の中山峠に連なる尾根の一部でした。 それが地震の揺れによって,巨大なブロックに切断され,崖下に移動したのです。
  • 稲子岳ブロックは「根無し」,すなわち元々の岩盤の上に載っているだけであり,加えて,後ろの尾根との間が連続した凹地になっているので,この凹地の地盤に大量の雨水が浸透すると,稲子岳ブロックと元々の地盤の間にすべり面が形成されるのでは,と危惧しています。
  • 天狗岳の付近は5mDEMで,硫黄岳の付近は5mDEMが未整備のため10mDEMとなっています。
    その違いは,地表面に存在する微小の凹凸の表現で判るのですが,そのことを考慮しても,硫黄岳の馬蹄形凹地の下部には崩壊土砂(移動体)が存在していないようです。 馬蹄形が形成されたのは,より古い年代(更新世後期?)からの浸食作用によるものだろうと,推測しています。
地形の三次元イメージ : 松原湖沼群と流れ山群
  • 大月川が本流である千曲川と合流する付近には,広大な流れ山群が存在します。
  • かなりの高速度で流下して来た「岩屑なだれ」は,千曲川右岸の崖で行く手を阻まれて,一部は千曲川の上下流方向に向かい,一部は崖で跳ね返されて折り重なるように大月川の下流に堆積したと思われます。
  • 千曲川の上流に向かった岩屑なだれの行方はすぐ近くで終息し,下流に向かった岩屑なだれは小海駅近くまで痕跡を残しています。
  • 大月川の最下流で折り重なるように堆積した岩石なだれのうち,丘(凸)の部分は「流れ山」となり,谷(凹)の部分で水が溜ったものは「湖沼」となったのです。
  • 同じような現象は,1888年(明治21年),磐梯山の「山体崩壊」があります。 無数の流れ山群と桧原湖などの天然ダム(堰止湖)が有名ですね。
【想像】天然ダムの三次元イメージ : 古千曲湖(仮称)
  • 「岩屑なだれ」が押し寄せたことによって,「千曲川」が堰き止められて「天然ダム」が作られました。
  • 岩屑なだれによってできた堤の高さは約123m,最高水位は標高1,100m前後と,考えられています。
  • 上図は,天然ダムの水面の標高を1,100mと仮定して作成した「想定・天然ダム湖」ですが,かなり巨大な湖であったことがわかります。。
【記事・引用情報と参考情報】

【記事】

  • 硫黄岳の馬蹄形凹地に写っている,複数の水平の黒いバンドは何回も繰り返し噴出した複数の「溶岩」の積み重ねです。 ほぼ垂直の壁ができるほど,硬い溶岩も存在しています。
  • この馬蹄形凹地は,かつて爆裂火口では,という説が出されましたが,現在は崩壊と侵食によるものだろう,と言われているようです。

【引用情報】

【参考情報】

【お断り】

  • 本ページは,従来「八ヶ岳(天狗岳)の山体崩壊で生まれた松原湖と大月湖」並びに「八ヶ岳連峰,硫黄岳北斜面の崩壊地形」として公開していたページを,統合し改題の上,最新の知見を基にして内容を更新しました。