地図を作ってみよう ―そして地図の中で考えよう―
地図を作ってみよう ―そして地図の中で考えよう― 出典 : 風景あるくの記 pp.115-117.

 前の章で地図の見方,考え方を書いたが,自分で実際に測量をし,等高線を描いてみるのが理解へのもっとも近道のように思う。 測量といっても大仕掛けなものでなく,一番簡単な器具を使用すればよい。 -中略-
 そこでさらに簡単で余りかさばらないものがある。 それはハンドレベルとクリノメーターだ。

 ハンドレベルは仰角,俯角を図ることができる。 その構造と使用法は非常にやさしい点が特徴で,重いトランシットやプリズムアリダードの役割を兼ね,小さく軽いことが何よりの身上といえる。 馴れると十分高い性能を出すことができる。 自分の眼の高ささえわかっていれば次第に高い所へ,また低い所へ測点を移してゆき最初の点と最後の点の差が,そのまま高さの差となる。

 さて高さはこれでよいが,これだけでは等高線は描けない。 高さのわかっている地点の位置が平板の図上で決定できなければ困る。 それにはクリノメーター(傾斜儀と呼んでいる)を使用すると方向が決まる。 その使用方法は次のとおりである。

 或る地点の方向と高さが決まれば観測の起点からの距離を間縄,測量尺で測定すればよい。 このように順次,高さの点を移動してゆくと,頭上にはたくさんの地点が記録されるから,等しい高さの点を結んでゆけば等高線ができあがる。 その時道路,家,急な崖,標識的な物体(例えば石地蔵,記念碑,大木等)を一緒に記入することを忘れてはいけない。 -後略-

Kashmir 3Dによる「風景あるくの記」の再現 : 恐らく測量実習の成果
  • 上左図は『風景あるくの記』の挿入図(第48図)です。 恐らく,昭和30年台の初期に,千葉大学の学生実習の成果だろうと推測します。
  • 一方,上右図は最新の国土地理院発行の地図タイルと標高タイル(5mDEM)を利用して描いた標高段彩図(21.0m~28.0m,⊿0.2m)です。
  • 貝塚内の最高点と最低点の差は,簡易測量の結果が約3mで,標高タイルの結果が約2.8mと調和的です(左右の地図で50年以上の時差あり)。
  • ただ,形状については,簡易測量ではほぼ円形なのに対し,標高タイルではやや楕円であるため,調和的とは言えません。 それは,
  • 実習時に設定した測定点の数量が少ないことが想像されます。 このような実習では,地形的に特徴のある点で測定される傾向があり,その結果最新の航空レーザー測量よりも精度が低下する傾向があるからです。
  • 注 現在では,ドローン搭載型のレーザープロファイラを使用する機会が多くなりましたが,学校の授業で測量の基本を学ぶためには,このような実習は大切なことと思います。
地図を作ってみよう ―そして地図の中で考えよう― 出典 : 風景あるくの記 pp.121-122.

 次の問題は千葉大学の神尾明正氏が人文地理の学期試験に出した問題で,近来異色の問題といえよう。 ひとつ,やってみてはどうだろう。
  「次の文章を読んで作者が左の図のどの地点にいたのかを考えてその位置を丸印で示せ。」
   ″四条河原町の三味線屋の飾り窓の中に,委託品として陳列されているスリーピーの
   マドロスパイプを吸口の所だけ照らしていた落日の最後のあかりも,市電を待っている
   うちにいつか消えてしまひ,黄昏がするすると落ちてきた。〟
                               織田作之助「土曜婦人」より

 もちろん,この問題には京都の町の特色や,地名の呼び方などが基礎知識として必要だが,それは京都の集落地理の話の中で説明されている。
 読者のために多少解説すると,四条の通りの東西の道路にある市電停留所は,四条の名前が先についた四条河原町と呼び,南北の河原町の通りにある停留所は河原町四条と呼ぶ。 何れもその通りの名を最初につけるのが特色。 またその位置は三味線屋の飾窓の中に陳列されているパイプの吸口までがよく見えているような場所である。 これだけがヒント。

小説の停留所名は「四条河原町」なので,左図の中では①と③が該当します。

「落日=西陽」なので,左下の方から日光が射しています。 よって,①では電停そばの窓に陽が当たっていて,③では道路反対側の窓に陽が当たっていることになります。

「パイプの吸口までがよく見えている」とは,電停から窓までが近いことを示しているため,道路反対側は論外となります。
よって①が正解なのですが,当時神尾先生に直接聞いていなかったので,これでよいかどうか。

注 現在,京都には市電はありません。 また,「河原町四条」というバス停も無く,「四条河原町」というバス停が,河原町通りと四条通りのいずれにも存在します。 ご注意のほどを。

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