地図を読む ―地形図は道をみるものではない―
地図を読む ―地形図は道をみるものではない― 出典 : 風景あるくの記 pp.112-114.

 山に行くにも,旅をするにも地図がいる。 それがどんな表現をとっていても地図と名がつけば一応売れているようである。 建設省地理調査所(注 現国土地理院)発行の二万五千分の一,五万分の一地形図はたくさんある地図類の中では最も正確なものである。 その精度もまた世界的で,他の国に比べてひけはとらない。

 しかしこの地図を読むということは旅行案内にでている不正確な鳥瞰図や見取図しか見ていない人々にはむつかしい。 山に行く連中の中で,このような見取図や鳥瞰図程度が能力しか持ち合わせていない,いたってお粗末な頭の持ち主が多い。 これは天気図と同程度に困ったことだ。

 それでも彼等は五万分の一地形図を一応地図ケースにちゃんと入れて肩から下げている。 それに磁石を持っていればよい方だが,なかには磁石も持たないパーティがいる。 また持ってはいるものの五万分の一の例の曲がりくねった等高線を読むことができないのだから,一息入れて眺めている山々が何という名前なのかわかろうはずがない。 このようなパーティからだしぬけな質問をされて面食らうこともたびたびある。

 現在の教育課程では,等高線は中学校で教えることになっている。 高校なら大学入試にも出題されるから一層詳しく教えられているのに,彼等が地図を見てわかるのは道だけである場合が多い。 地形図は道を見るものでなく,地形の状態を見るものである。 -中略-

 どの本にも山の案内図が出ている。 どれを見ても五万分の一地形図を出して説明している例は少ない。 例の黒い棒で尾根を現し△印でピークを示している。 新ルート発見の見取り図に至ってはシュールの画家が画いたと思うようなものがある。 スケッチが下手なら連続写真を撮りつなげて,その上にトレーシングペーパーを置いてトレースすればよいのだが,妙な山の雑誌の約束でもあるのか,科学的記載にほど遠いものが大部分である。 第43図はこのようにして描いた山の尾根と沢の入りくみをを示した図で最低でもこのくらいのレベルが欲しい。

Kashmir 3Dによる「風景あるくの記」の再現 : 山の尾根と谷図
  • 左図は『風景あるくの記』に掲載されている,川崎氏の描いた「尾根と谷図」です。
  • 当時の五万分の一地形図が手元になかったので,最新の地図タイル(二万五千分の一地形図相当)を右に添付しました。
  • 地形図の縮尺の差もありますが,地形図そのものの描画精度が格段に向上しているので,単純には比較できませんが,よく描けていると思います。

水殿川を三次元的に表現してみました。 昭和35年(1960年)当時との地図精度の差に感激です。
【参考情報 : 遡行図の二例と二万五千分の一地形図】
  • 登山の愛好者の中で,専ら「沢登り」を専門にする人たち(通称 沢ヤ)が利用する地図が「遡行図」です。
  • 上左図は従来から作成されて今も利用されている「遡行図(例)」です。 川崎氏が『風景あるくの記』の中で「例の黒い棒で尾根を現し△印でピークを示している。」と記した地図の仲間です。 この図は二万五千分の一などの一地形図を下図にしていないためか,例えば「源次郎沢」やその南の「天神尾根」などの位置が,実際の地形図とは異なっている場所があります。
  • 一方上右図は,二万五千分の一地形図を下図にして作成された遡行図(例)です。 本ページに転載した第43図と同種の図を,薄くコピーした地形図の上に描いたものです。 右上図には,滝やガレ場など,遡行者にとって有益な情報が描き加えられています。
【閑話休題 : 丹沢表尾根,三ノ塔からの本谷沢と大倉尾根】

画像左「雨山(1176m)」の右はるか遠くには,南アルプスの赤石岳あたりが写っています。
画像右端の「書策小屋」ですが,小家主の渋谷書策さんは御高齢のため,2000年頃から休業のち廃業となり,現在は跡だけが残っているそうです。
【引用情報と参考情報】

【引用情報】

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