富士山 ―富士山よりも富士山らしい山 富士山の方が富士山らしい山―
富士山よりも富士山らしい山 富士山の方が富士山らしい山 出典 : 風景あるくの記 pp.39-40.

 日本のいたるところに何々富士と呼ばれる山が実に多い。 この感覚が実在の富士と呼名の富士がいつか混然一体となっている。 このような環境に育った人々は富士山は自分の国のものが富士山であると考え,また自分の国の山のような姿をした山を富士山と考えるようになった。

 私の研究室にいるK君は道産子で,郷里の倶知安には羊蹄山がある。 周囲の何物も邪魔するものの無い原野に,毅然として聳え立つ羊蹄山の姿は朝夕彼の心に深い印象を与えた。 K君は富士山とは,羊蹄山のような山であるというイメージを持って育ってきている。 もちろん,本当の富士山も知っている。 しかし彼には,「やっぱり羊蹄山の方が,富士山より富士山らしい山」なのだ。 これは美しいイメージだと思う。

 またF君は富士吉田生まれ,朝夕眼の前に大きく聳えたつ本当の富士山を眺めて育ってきた。 野外実習などでも富士山が見えると飛び上がって喜ぶところを見るとF君の体の半分は富士山らしい。 他の国にも富士山と名の付く山の多いのを彼も知っている。 しかしどの国の富士山も「富士吉田の富士山の方が富士山らしい山」なのである。

 このK君とF君がたまたま富士山のことで議論しているのを聞いていると面白い。 -後略-    以下の写真は事務局員が撮影しました。


(上)富士吉田近くの河口湖からの富士山。 5合目くらいから上は,ほぼシンメトリー(均整)です。
(下)倶知安近くの農場からの後方羊蹄山。 右側が少し丸みを帯びていて,シンメトリーではありません。
論争のタネ : 富士山と蝦夷富士(後方羊蹄山:マッカリヌプリ)
  • 本家の「富士山(3776m)」と蝦夷富士と呼ばれている「後方羊蹄山:マッカリヌプリ(1893m)」は,いずれも「単独峰」の「成層火山」です。
  • しかし,活動の時期は異なります。 本家富士山は有史後もしばしば噴火を繰り返し,最後の噴火は1707年の「宝永噴火」でした(今後再活動するかもしれません)。
  • 一方,蝦夷富士の方は第四紀後期更新世で活動が止まってしまったため,日本の活火山には登録されていません。
  • 本家富士山が噴出した溶岩と火山砕屑岩(火砕岩)は「玄武岩」であるのに対し,蝦夷富士の方は「安山岩・玄武岩質安山岩」と,玄武岩に比べて粘性が高いのが特徴です。
  • 真上から見た地形図で,蝦夷富士の方が山腹の「掘れ溝(ガリー)」が多いのは,活動停止後の時間経過が本家富士山に比べ蝦夷富士の方がはるかに長いからでしょう。
全国の富士山(事務局調べ)
富士山名 正式山名 都道府県 標高 注 記 事 項 富士山名 正式山名 都道府県 標高 注 記 事 項
利尻富士 利尻山 北海道 1721 活火山,安山岩~玄武岩,約8千年前 北見富士 北見富士 北海道 1306 火山2座,①安山岩類,②火砕流
阿寒富士 阿寒富士 北海道 1476 活火山,玄武岩,約2.5千年前 蝦夷富士 羊蹄山 北海道 1893 火山,安山岩類,後期更新世
津軽富士 岩木山 青森県 1625 活火山,安山岩,1800年代活動歴 南部片富士 岩手山 岩手県 2038 活火山,玄武岩~安山岩,複成火山
出羽富士 鳥海山 山形県 2236 活火山,玄武岩~安山岩,1974年 吾妻小富士 吾妻小富士 福島県 1707 活火山,吾妻山群,約5.4千年前
会津富士 磐梯山 福島県 1816 活火山,安山岩,成層火山,1888年 富士山 富士山 栃木県 1184 活火山,流紋岩類,完新世,円頂丘
榛名富士 榛名山 群馬県 1390 活火山,溶岩円頂丘,複成火山 八丈富士 西 山 東京都   854 活火山,玄武岩,成層火山,1605年
信濃富士 黒姫山 長野県 2053 火山,安山岩,後期更新世 能登富士 高爪山 石川県   341 火山,安山岩,新第三紀 中新世
富士山 富士山 静岡山梨 3776 活火山,玄武岩,成層火山,1707年 若狭富士 青葉山 福井県   693 火山,玄武岩,新第三紀 中新世
近江富士 三上山 滋賀県   432 付加体,チャート,~前期ジュラ紀 大和富士 額井岳 奈良県   812 火山,流紋岩類火砕流,中新世
伯耆富士 大 山 鳥取県 1729 火山,流紋岩類,後期更新世 浅利富士 室神山 島根県   246 火山,流紋岩類火砕流,後期白亜紀
安芸小富士 似 島 広島県   278 花崗岩,後期白亜紀 讃岐富士 飯野山 香川県   422 火山,安山岩,新第三紀 中新世
糸島富士 可也山 福岡県   365 火山,玄武岩,新第三紀 中新世 伊万里富士 腰 岳 佐賀県   488 火山,流紋岩類,第四紀 更新世
佐世保富士 烏帽子岳 長崎県   568 火山,玄武岩,新第三紀 中新世 玖珠富士 涌蓋山 大分県 1450 火山,安山岩,第四紀 更新世
薩摩富士 開聞岳 鹿児島県   924 活火山,玄武岩,885年(円頂丘) 本部富士 ミラムイ 沖縄県   241 付加体,石灰岩,~ジュラ紀
  • リンクが設定されている「○○富士」は,本ウェブサイト内で詳しく紹介するページが存在します。 よろしければ左クリックしてください。
  • 「何々富士」と呼ばれている山々の中で最も多い種類は,14座の「火山」と12座の「活火山」です。 合わせると29座中26座となります。
    噴火の規模はかなり違いますが,本家の富士山に似た形が出来上がるようです。
  • 堆積岩の付加体と花崗岩で構成される富士山は,単に形が似ているだけのようです。 地形用語の「残丘」と呼ばれるものでしょう。
事務局が撮影した「色々の富士」
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