風景を作るもの ―はじめに先ず風景ありき―
風景を作るもの―はじめに先ず風景ありき― 出典 : 風景あるくの記 pp.4-5.

『馬籠は木曽十一宿の一つで、この長い溪谷の尽きたところにある。 西よりする木曽路の最初の入り口になる。 そこは美濃境にも近い。 美濃方面から十曲峠に添うて、曲がりくねった山坂を攀じ登って来るものは、高い峠のこの位置にこの宿を見つける。 街道の両側には一段づつ石垣を築いてその上に民家を建てたようなところで、風雪を凌ぐための石を載せた板屋根がその左右に並んでいる。』 島崎藤村作『夜明け前』

 大学の学期末試験の時,これを出して地図を描かせたことがあった。 結果は,出題者のセンスと回答者のセンスが,不幸にして一致していなかったことがわかった。 藤村の文章には大地の匂いが濃厚に感じられ,それが風土の地理的性格をはっきりさせている。 気候も地形も人物も混然一体となって美しい風景を描き出している。   編集者注,恐らく教養課程にあった「地形学」の期末試験と思われます。

Kashmir 3Dによる「風景あるくの記」の再現 : 馬籠宿概観標高段彩図
  • さて,この試験をクリアするために,考察すべき事柄をいくつか挙げましょう。
  • 「美濃境」とは,「峠(馬籠峠)」そのものであることを理解する必要があるでしょう。
    これより『そこは美濃境にも近い』とある馬籠宿は峠ではなく,峠の少し手前にあるのでは,との推理が成り立ちます。
  • しかし,『この溪谷の尽きたところ』は,どう考えても「美濃境」に間違いは無さそうなので,上の位置とは矛盾してしまいます。
  • 更に,「十曲峠」とはいわゆる峠ではなく,『曲がりくねった山坂を攀じ登って来る』と表現した道のことで, 現在では「落合の石畳」と呼ばれています。
  • このように考えてくると,当時の学生が地図を描けなかったのも頷けます。 先生,そもそも,設問自体が無理だったかもしれませんよ。
Kashmir 3Dによる「風景あるくの記」の再現 : 馬籠宿詳細標高段彩図
  • 「馬籠宿」は,尾根の上にあります。
  • 「島田川」沿いには宿場を作るだけの場所が無かったこともありますが,土石流に備えていたのかもしれません。
  • 井戸水は全く期待できないはずなので,沢水を引いてくる用水路が必要だったと思われます。
  • ということで,調べてみたら「下川用水」というのが作られていました。 また,「寺沢」の水も利用されていたようです。
  • 国土地理院の地形図には,この下川用水路が描かれていて,現在も使われているようです。
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